「食品表示を間違えたら、いきなり逮捕されるんじゃないか」——そんなイメージを持っている方は、意外と多いかもしれません。
結論から言うと、それは誤解です。うっかりのミスをすぐに直せば、多くは指導の段階で終わります。ただし、知っておくべき例外もあります。
今回は、食品表示のミスが見つかったときに実際どう進むのか、条文にもとづいて正確に整理します。怖がる必要はありませんが、正しく知っておくと、いざというときに慌てずに済みます。
表示ミスは、どうやって発覚するのか
まず、表示のミスが見つかるきっかけです。消費者庁や都道府県による立入検査・報告徴収(第8条)のほか、消費者からの申出(第12条)、購入者や同業者からの指摘など、経路はさまざまです。ハンドメイド食品の場合は、購入者からの問い合わせがきっかけになることも少なくありません。
基本の流れは「指導 → 指示 → 命令 → 罰則」
違反が見つかっても、いきなり処罰されるわけではありません。段階を踏んで対応が進むのが基本です。
①指導(行政指導)
実は、食品表示法の条文に「指導」という段階は書かれていません。これは法律上の処分ではなく、行政が改善を求める行政指導にあたるものです。
行政のそもそもの目的は「罰すること」ではなく「表示を正しく直してもらうこと」です。だから、いきなり処分にするよりも、まず「直してください」と伝えるほうが早くて確実。これが実務上、最初のステップになっている理由です。法律上の処分ではないので、公表もされません。ハンドメイド食品の表示ミスも、多くはこの段階で解決します。
②指示(第6条第1項・第3項)
指導に従わなかったり、改善が見られなかったりする場合に、正式な「指示」が出されます。ここから法律にもとづく行政処分です。
なお、条文上はこの「指示」の段階から公表の対象です。第7条は「指示又は命令をしたときは、その旨を公表しなければならない」と定めています。「命令まで行かなければ公表されない」わけではない点は、正確に知っておきましょう。
③命令(第6条第5項)
指示を受けた人が、正当な理由なくその指示に従わなかったときに、「指示に係る措置をとるべきこと」を命じられます。これが通常ルートの「命令」です。
④罰則(第20条)
この命令にも従わなかった場合に、初めて刑事罰の対象になります。
第六条第五項の規定による命令に違反した者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
食品表示法 第20条
法人の場合は、両罰規定(第22条)により1億円以下の罰金が科されることもあります。ただしここに至るのは、指導も指示も命令もすべて無視し続けたという、かなり極端なケースです。
段階を飛ばすルートもある
上の4段階が基本ですが、食品表示法には、この流れを経ずに直接罰則の対象になる規定もあります。ここが、いちばん誤解されやすいところです。
例外①:安全性に重要な影響を及ぼす事項(第18条)
「食べる人の安全に直結する事項」について基準どおりの表示がされていない食品を販売した場合は、指示・命令を経ずに処罰の対象になります(2年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金、または併科。法人は1億円以下)。
ここで大事なのは、その「事項」の範囲です。「アレルゲンだけ」と書かれている解説をよく見かけますが、実際の対象は内閣府令(平成27年内閣府令第11号)第1条で決められていて、もっと広いものです。ハンドメイドでお菓子やパンを売る方に関係するのは、次の4つです。
- 名称
- 保存の方法
- 消費期限又は賞味期限(消費期限だけでなく、賞味期限も対象です)
- アレルゲン
このほか、L-フェニルアラニン化合物を含む旨、指定成分等含有食品に関する事項、特定保健用食品・機能性表示食品・栄養機能食品を摂取する上での注意事項、そして生食用の魚介類・食肉・ふぐ・冷凍食品など、特定の食品ごとの表示事項も対象になっています。
つまり、ラベルの基本4項目(名称・保存方法・期限・アレルゲン)は、法律の建て付け上、いずれも重い扱いだということです。アレルゲンだけを特別扱いして、ほかを軽く見るのは正確ではありません。
例外②:原産地の虚偽表示(第19条)
原産地(原材料の原産地を含む)について虚偽の表示をした食品を販売した場合も、直接処罰の対象です(2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金。法人は1億円以下)。
ここでのポイントは、条文が「虚偽の表示」と書いていること。「〇〇県産」と書くときは、根拠を確認してから書くのが基本です。
例外③:緊急の回収命令に違反した場合(第17条)
上の「安全性に重要な影響を及ぼす事項」の表示に問題があり、消費者の生命・身体への危害の発生や拡大を防ぐために緊急の必要があると判断された場合、行政は商品の回収や業務停止を命じることができます(第6条第8項)。
この回収命令に違反した場合の罰則が、食品表示法でもっとも重い3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金(または併科)、法人は3億円以下です。ただしこれは「回収しなさいと命じられたのに、売り続けた」という段階の話です。
罰則の一覧(食品表示法)
| どんな場合か | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 指示 → 命令(第6条第5項)に従わなかった =通常ルートの最終段階 | 1年以下の拘禁刑 または100万円以下の罰金 (第20条) | 1億円以下 |
| 名称・保存方法・期限・アレルゲンなど、安全性に重要な影響を及ぼす事項の表示がない =段階を経ない直罰 | 2年以下の拘禁刑 もしくは200万円以下の罰金 または併科 (第18条) | 1億円以下 |
| 原産地(原材料の原産地含む)の虚偽表示 =段階を経ない直罰 | 2年以下の拘禁刑 または200万円以下の罰金 (第19条) | 1億円以下 |
| 緊急の回収等命令(第6条第8項)に違反した | 3年以下の拘禁刑 もしくは300万円以下の罰金 または併科 (第17条) | 3億円以下 |
| 立入検査を拒んだ/報告をしない/ 自主回収の届出をしない | 50万円以下の罰金 (第21条) | 50万円以下 |
※「拘禁刑」は、2025(令和7)年6月1日から懲役・禁錮が一本化された刑の名称です。古い解説では「懲役」と書かれていることがありますが、現在の条文はすべて拘禁刑に置き換わっています。
「直罰の対象」=「うっかりで即処罰」ではありません
ここまで読んで、「基本4項目が直罰の対象なら、うっかりミスでも捕まるの?」と不安になった方もいるかもしれません。落ち着いて読んでください。
刑事罰は、原則として故意(わざとやったこと)がなければ成立しません。刑法第38条第1項は「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない」と定めており、食品表示法にはこの「特別の規定」(過失も罰するという定め)は置かれていません。
条文がこうなっているのは、悪質なケースや、実際に健康被害が起きかねないケースに、行政が段階を飛ばして対応できるようにするためです。実際の運用では、うっかりのミスはまず行政指導で是正を求められるのが一般的とされています。
とはいえ、この4項目が法律上いちばん重く扱われているのは事実です。販売前に見直す優先順位を決めるなら、まずこの4つ——と考えるのが、いちばん合理的です。
自分で気づいて回収する場合、届出が必要なことがある
行政に指摘される前に、自分でミスに気づくこともあります。早めに気づいて自主的に対応することが、その後の展開を大きく左右する——これは変わりません。
ただし、見落としやすい決まりがあります。上の「安全性に重要な影響を及ぼす事項」の表示に問題があって商品を回収するときは、遅滞なく行政に届け出る義務があります(第10条の2第1項)。そして届出があった場合、行政はその旨を公表しなければならないと定められています(同条第2項)。届出をしなかった場合は、それ自体が50万円以下の罰金の対象です(第21条)。
ただし、届出が不要になる場合があります
ここは、ハンドメイド販売の方にとって特に大事なところです。第10条の2第1項には除外規定があり、その中身は内閣府令第4条で決められています。
(届出が不要なのは)食品の販売の相手方(消費者を含む。)が特定されている場合であって、当該食品の販売をした食品関連事業者等が当該販売の相手方に直ちに連絡することにより、当該食品が摂取されていないこと及び摂取されるおそれがないことが確認されたとき
平成27年内閣府令第11号 第4条(要旨)
つまり、誰に売ったかが分かっていて、すぐ連絡して、まだ食べていない・これから食べることもないと確認できたなら、届出は不要ということです。
ネット販売や予約販売、常連さん相手の販売なら、購入者が特定できることが多いはずです。この規定は、そういう場面を想定したものと考えられます。「自主回収=必ず公表」ではありません。
逆に言えば、誰に売ったか分からない売り方(不特定多数への対面販売など)ほど、いざというときに届出と公表が必要になりやすいということです。販売記録を残しておくことには、こういう意味もあります。
なお、安全性に関わらない表示の間違い(原材料の並び順など)は、そもそもこの届出義務の対象ではありません。気づいた時点で表示を直せば、指示・命令に進むことなく終わるのが通常です。
大事なのは、「隠さず、早く動く」こと。届出が必要な場面かどうかを含めて、早めに保健所や自治体の窓口に相談するのがいちばん確実です。
ハンドメイド食品の販売者が、今日からできること
- まず「名称・保存方法・期限・アレルゲン」の4つを確認する。法律上いちばん重く扱われている項目です。
- 「〇〇県産」と書くときは根拠を確認する。原産地の虚偽表示も直罰の対象。
- ミスに気づいたら、すぐに直す。早い是正が、その後の展開をいちばん左右します。
- 誰に売ったかを記録しておく。回収が必要になったとき、届出が不要になる条件に関わります。
- 回収が必要かもと思ったら、まず相談する。自己判断で「届出不要」と決めないこと。
- 販売前に、一度は誰かの目を通す。自分だけで作ったラベルは、思い込みに気づきにくいもの。
まとめ
- 表示ミスが見つかっても、いきなり罰則にはならない。まず行政指導から(これは条文ではなく実務上の運用)。
- 通常ルートは「指導→指示→命令→罰則」。命令(第6条第5項)に従わなかった場合に刑事罰の対象(第20条:1年以下の拘禁刑・100万円以下の罰金)。
- 公表は「指示」の段階から対象(第7条)。命令まで行かなければ公表されない、ではない。
- 段階を飛ばす直罰は①安全性に重要な影響を及ぼす事項(第18条)②原産地の虚偽表示(第19条)。①の対象はアレルゲンだけでなく、名称・保存の方法・消費期限/賞味期限も含む。
- ただし刑事罰には原則故意が必要。うっかりミスが即処罰になるわけではありません。
- もっとも重いのは緊急の回収命令に違反した場合(第17条:3年以下の拘禁刑・300万円以下の罰金・法人3億円)。
- 安全性に関わる回収には届出義務と公表(第10条の2)。ただし買った人が特定でき、まだ食べていないと確認できれば届出は不要。
正しい流れを知っておけば、必要以上に怖がる必要はありません。大切なのは、うっかりミスをそのままにしないこと。それだけで、ほとんどのリスクは防げます。
出典・参考
- e-Gov法令検索「食品表示法」(令和7年6月1日施行の現行条文)
- e-Gov法令検索「食品表示法第六条第八項に規定するアレルゲン、消費期限、食品を安全に摂取するために加熱を要するかどうかの別その他の食品を摂取する際の安全性に重要な影響を及ぼす事項等を定める内閣府令」(平成27年内閣府令第11号)
- 消費者庁「早わかり食品表示ガイド」(令和7年4月版・事業者向け)
- 消費者庁「食品表示法等(法令及び一元化情報)」
この記事についてのお願い
本記事は、公開されている法令・行政資料をもとに、食品表示検定中級の資格者が一般的な情報としてまとめたものです。個別の事案についての法的助言ではありません。
法令の解釈や運用には幅があり、実際の取扱いは所管の行政庁の判断によります。また、法令は改正されることがあり、この記事の内容が最新でなくなる場合があります。具体的な案件については、お住まいの自治体の食品表示担当窓口・保健所、または弁護士等の専門家にご相談ください。
内容には十分注意していますが、誤りにお気づきの際は、お問い合わせからご指摘いただけると助かります。確認のうえ、速やかに訂正します。
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